そういえば果物屋さんには果物が置いてあり野菜は見あたりません、あたり前といえばあたり前ですが。一方で、八百屋さんの店先には野菜だけでなく果物も置いてあります。さすが八百屋さんというだけあって、私たちには日常の風景です。例えば長ネギは間違いなく野菜といえそうですし、イチゴは果物屋さんにも八百屋さんの店先にも見受けられますがどうやら果物のようです。日本の夏を代表するスイカも、どちらの店先にも売られていますが、果物扱いになっています。しかしながら、同じウリ科のキュウリは野菜に分類されています。
ではトマトはどうでしょう。日本ではトマトは果物屋さんには置いていないので八百屋さんで求めますから野菜でしょうか。八百屋さんや果物屋さんの店先から視点を変えて、言語の世界に目を向けてみると、日本語や英語では野菜とされていますが、なんとドイツ語では果物に分類されています。どうやらトマトは地球規模でみた場合野菜と果物のボーダーライン上にある食べ物のようです。
実はトマトについては、1893年にアメリカの最高裁において「ニックス対ヘッデン事件」という裁判があり、そこで「トマトは野菜か果物か」が争われたことがあったそうです。その背景としては、当時野菜には関税がかかり果物は無税だったため、商売に不利とみた輸入業者が「トマトは果物だ」と主張しましたが、判決は「トマトは食事に出されるがデザートにはならず、野菜畑で育つ」として野菜と認定され、法律的に野菜の扱いが確定した、という社会的な歴史を持っています。(『意味の意味』池上嘉彦 NHK出版)
今は温室栽培がスタンダードなのでしょうか、真夏の陽に瑞々しく輝く赤いトマトが、関税がかかるかどうかで野菜か果物かが決められた、という歴史をもっていることはあまり知られていないかもしれません。私は子供のころから常温で食べるほどトマトが大好きでしたが、独特の風味があり(最近は品種改良が進んだこともあり、あまり聞かなくなりましたが)それが苦手だと言われることがよくありました。遠く中南米を原産地とするトマトが、全世界の食生活の場面に伝播する過程で、栽培という自然的な面と食卓に上るという文化的な面とともに、裁判という社会的な面でもその歴史を有していることに大いなる敬意を払って食すべきではないかと、密かに思っているわけです。
