動物行動学の鈴木俊貴によると、シジュウカラという野鳥の鳴声には決まった意味を持つものがある、つまり特定の鳴声が言葉になっている、といいます。シジュウカラは私たちの街でも、ハトやスズメ、メジロなどと並んでよく見かける小鳥です。鈴木はシジュウカラの鳴声の意味や役割について17年以上も長野県の森にこもって調べてきた結果、今や空の鷹も地上の蛇も、その出現をシジュウカラの鳴声に教えられるようになりました。
シジュウカラは鷹を「ヒヒヒ」、蛇を「ジャージャー」と鳴いて仲間に警戒するよう知らせます。鈴木が実験で、スピーカーから「ヒヒヒ」という鳴声を流すと空を見上げ、「ジャージャー」を流すと地面を探すそうです。続いて鈴木は、認知実験も行います。蛇の代わりに木の枝を用意して、「ヒヒヒ」と「ジャージャー」を被験者(鳥?)に聞かせたところ、「ジャージャー」にだけ木の枝を蛇と見間違えるという反応をみせました。つまり決まった警戒の鳴声には、それに対応する決まった動きをすることが分かりました。
それからシジュウカラは「ピーツピ・ヂヂヂヂ」と鳴くことがあるそうです。それまでの観察で「ピーツピ」は「警戒」、「ヂヂヂヂ」は「集合」を意味する事は分かっていましたので「警戒して集まれ」を意味している「二語文」だと考えられました。そこで鈴木は本来の「ピーツピ・ヂヂヂヂ」と順序を逆にした「ヂヂヂヂ・ピーツピ」の二種類を用意して、それぞれをシジュウカラに聞かせたところ、なんと本来の声には警戒しながらスピーカーに集まってきましたが、逆の声にはほとんど近づいてこなかったそうです。この実験結果の論文発表は2016年でしたが、人間以外の動物で初めて文法能力が確認されたと、世界の注目を集めました。
鈴木はここで言語学に踏み込んだ実験も実施します。つまり「ピーツピ・ヂヂヂ」が一個体から発せられた場合と区別して、二個体がそれぞれ「ピーツピ」と「ヂヂヂヂ」を発したように別々のスピーカーから流しました、しかも、モズの剥製まで用意して。結果、一つのスピーカーからの「ピーツピ・ヂヂヂヂ」には集合して剥製のモズを追い払う行動をしましたが、二つのスピーカーからそれぞれ流れた「ピーツピ」と「ヂヂヂヂ」にはそうした行動を示しませんでした。これらは「ピーツピ」とヂヂヂ」、そして「ピーツピ・ヂヂヂヂ」とは、それぞれ別々の言葉と考えられます。 (『僕には鳥の言葉が分かる』小学館)
あんな小さな鳥にも言語能力が、あるいは特定された支持伝達の能力(と呼んでいいのかどうか?)があるなんて、不思議ですが同じ生きものとして温かな心持ちになりますね。
