以前にビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズがデジタルデバイスの使用を、自分の子供に対して制限していたことを話題にしましたが、ここ数年世間を席巻している生成AIについてはどうなんだ、という話が出てきています。まだ小さな子供たちが生成AIと会話(それを会話というのかどうかは別にして)していることへの危惧が表明されています。これは、母語が固まらないうちに外国語を習得させることの是非と、似ているようですが非なるものといえそうです。外国語も間違いなく人の言葉だからです。
人の言葉と生成AIの言葉(それを言葉というのかどうかは別にして)の違いは何かという問い掛けに対して、私は「人の言葉=言語には個々別々の感情やイメージ等々が付着しているが、AIの言語にはそんなものはない、つまり膨大なデータで成り立っているだけだ」と応えます。映画的にいえばターミネーター/T-800が「I’ll be back」と言うのと一緒で、いくらその場面を象徴するような名言であっても、ヒトの被膜で覆われたマシーンのデータ処理にすぎないのです。どうも鉄腕アトムのように人の心を持ったロボットは、永遠に想像の世界といえそうです。
心理学者の皆川泰代によると「人間の脳って、とくに初期段階では、良くも悪しくも、環境に適応する形で発達できちゃうんです。ですから、幼い脳は、与える刺激次第で悪い方向に悪い方向に変化してしまう可能性があります」、「教育現場から人間がいなくなるのは問題だと思います。中学生や高校生では、基本的な認知能力の脳内基盤は完成されているとしても、前頭葉は完成していません。前頭葉は、感情を調整したり、自分の欲求や衝動を抑制したりする力などを司ります。これは人と人とのつながりを通して学ぶものです」となります。人間は大人になるまで、ほんとうに時間がかかる生きものなんですね。
生成AIもうまく利用できる道具だ、というぐらいで付き合っていくのが「大人の付き合い」というものかもしれません。米国公衆衛生局長官V・Murthyは「車は早く移動できる利点もあれば、自己のリスクもある。だから製造過程から国の基準があり、運転免許が必要という、国がガイドラインを提供している。同様にスマホにも利点とリスクがあるけれど、親は子どもがどのようにスマホと接するかに、全責任を負わされている。これはフェアではない」といいます。少なくとも子育て世代には何らかのガイドラインが必要なのかもしれません。 (『言語学者、生成AIを危ぶむ 子どもにとって毒か薬か』川原繁人 朝日新書)
