かつて不動産屋は「せんみつ屋」と呼ばれた時代がありました。それは「きれいごとを並べて、土地や家屋を斡旋して儲けていたから」、あるいは「斡旋が成立するのは、千あるうちで三つくらいだから」という二説によります。ほんとうは「さまざまな取引の仲介をする、いわゆるブローカー全般を指して」いるのですが、よほど不動産屋が目立っていたのでしょう。 (『辞書には載っていない!?日本語』髙村史司 清酒運新書)
世の中には「隠語」といって「一部の限られた人の間だけで通じる言葉」があります。私たちの業界にも「片手」とか「両手」、「あんこ」等々、一般社会とは違う意味合いをもって、商売上の対話が成立する場面があります。
考えてみれば、こうした言葉の成り立ちは日本語ならではのことではないかと思います。私たちの「あんこ」も、両側に「元付」があり、二つの間に挟まった餡というイメージが容易に湧いてきます。それがどんな「あんこ」なのか(ツブ餡かコシ餡か)は、実際の繋がり具合によりますが…。「ロハにしてよ」というのは「只」という漢字を分解しています。また「ゲンかつぎ」のように「エンギ」を逆さ読み(ギエン→ゲン)にした言葉もあります。一音ごとのカナと意味的な漢字とで構成している日本語だからこそ、ひっくり返したり、分解したり、シャレたりと、さまざまな暗号=「隠語」を生み出すことができます。
これら「隠語」は、時代がかった古い印象がありますが、私たちの社会がコンピュータ化してからできた「隠語」もあるといいます。それは出版・印刷業界の「校正ゾンビ」です。書籍が原稿から書籍として出版されるまでの間、校正作業はふつう三回程度行うそうです。初校、再校、三校(念校)と、校正されるたびに修正されてきますから、新しく印刷された方が正しいものと考えられますし、実際、そのようになっているはずです。
ところが、修正されていたはずの箇所が三校になって、もと通りに復活することがあるというのです。その担当者が震撼する場面ですが、その都度活字を拾って版組みしていた時代には、ありえなかった現象です。私たちでもあることですが、初稿を校正し第二校とした時、初校を上書きせずにデータをそのまま残しておくことがあります。万が一のための予防策ですが、さて最終の第三校という段階で第二校ではなく、なぜか初校のデータを使ってしまい、本来第二校で修正されている箇所のはずが、もとの通りに復活するという、目の前で起きている現象に呆然としてしまう事態が出来するわけです。
