【社長のひとりごと】No.24-言葉には人それぞれの背景がある

 例えば音楽仲間と歌を合わせていて「音を下げようよ」といった時、それが自宅の部屋だった場合なら「音量を下げる」という意味になり、スタジオなどでの音合わせの場合なら「キーを下げる」意味になることが、それぞれ想像できるように思います。

 言語学者で作家の川添愛がTVを見ていた時、ブラックマヨネーズの吉田氏の披露した以下のエピソードがあったそうです。

――芸人仲間と居酒屋で飲んでいたところ、店内が暑くなってきたので、後輩の芸人さんに「お店の人に、室温を下げるように言って」と頼んだところ、その芸人さんがお店の人に「すみません、冷房を上げてください」と言いました。吉田氏は「それだと室温を上げられてしまう」と思い、慌てて訂正しました。(『ホンマでっか⁉ TV』フジ 2023.03.15)

 後輩の芸人さんが言った「冷房を上げてください」も「室温を下げてください」という意味で言ったのだと思いますが、一方で吉田氏が受け取ったように「室温を上げて」という意味だったとも、この場合は二通りに解釈できます。

 このように、どちらの意味も成り立つのは「冷房」という言葉が「冷房装置の出力(機能)」を表す場合と、「冷房装置の設定温度」を表す場合とが、あるからです。後輩の芸人さんは先輩の指示通り「冷房(機能の出力)を上げて」と店員さんに伝え、その言葉を耳にした吉田氏は「冷房(の設定温度)を上げて」と認識したという、いかにも誤解を生みそうなエピソードとなりました。 (『世にもあいまいなことばの秘密』川添愛 ちくまプリマー新書)

 自分の言葉と他人の言葉には、同じ日本語でもその背景の違いには真逆の差があり得ることを肝に銘じておくことが必要です。「冷房」という言葉だけでなく、私たちの生活や仕事の場面においても、説明的な文言をすこし補足するだけで誤解を生む懸念も少なくなります。仕事上での説明を要する場面等では、言葉の組み立てに特に注意をしていく必要がありそうです。同業者同士でさえ経験値と知識値が違うのと同様、一般消費者の方は仮に取引の知識に長けていても「不動産の事は何も分からない」の一言に象徴されるように、経験値はもちろん知識値についても限りなくゼロに近い想定をしておくことが肝要です。

 私たちの日常で一、二度言っても、同じ言葉で伝わらなかったならば、別の言葉で伝える努力が必要でしょう。TVの裁判ドラマの「質問(の言葉)を変えて」ってヤツです。